-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第一話:第一区域
「デーモンクォーターが運命のダイスを手に入れることについて語ろう」:其之四


 

 砂嵐。
 乱れる映像の中、徐々に風景が浮かび上がってくる。途切れ途切れだった音も、鮮明に聞こえるようになる。
 落ち着いた和風家屋の佇まいとは反対に、激しく言い争いをしている声が響いていた。
 着流し姿の男と、小柄な女。二人とも額に角がある。
 鬼だ。
「あの子のことは、あの子自身に選ばせるべきです!」
 女が声をあげる。
「あれにそんなことができるとでも思っているのか?」
 男には、焦燥の表情。
「あれには心が無いんだぞ」
「しかし、いずれわかる時がくるはずです!」
「あの状態のまま、一体何年経っていると思ってる?」
「だからと言って、あの子に罪はないじゃないですか!」
「今は、俺が押さえつけている。だが、それにも限界が来る。近いうちに人を殺すようになる。人の、敵となる」
 すぐ傍で、積み木で遊んでいる女の子。
 愛おしそうに男は少女を見つめる。
「俺が、悪いんだ。俺には、あの子に心を与えてやることはできなかった」
 景色が歪む。
 砂嵐。
 場面が変わった。
 一面に広がる赤。
 男が倒れている。胸から血を流して。
 彼の目の前に、少女がいた。何の感情も示さない目で、男を見つめている。
「哀れだな……」
 男は口角を上げる。
 いつかこうなることはわかっていた。
 しかし、どうしてもできなかった。
「殺せなかったか……」
 男の目から雫が零れ落ちる。頬を濡らす。
 少女がゆっくりと男に近づく。
 その雫に、そっと触れる。
「涙」
 少女がつぶやいた。確かめるように。
 その言葉が表すものを確かめるように。
 少女の目に、光が宿る。
 そして、生まれて初めて、少女は己の行為を理解する。
「馬鹿野郎……」
 男の慟哭は、そう長くは続かなかった。
 景色が歪む。
 砂嵐。
 再び場面が変わる。
 妖魔が暴れている。いくつもの建物は崩壊し、多くの人が倒れている。
 彼女は、動けない。怪我を負っている。立ち上がれず、膝をつくので精一杯だ。
 子供が倒れている。様子からして、まだ息はあるようだ。妖魔はその子を狙ったわけではないが、その攻撃が子供を巻き込もうとしていた。
 動いたのは、小柄の鬼。
「チカ!」
 鮮血が舞う。
 鬼は子供をかばい、攻撃を受け続ける。
 彼女は鬼を助けようと動くが、怪我を負っているうえに、何より実力が届かない。
 簡単に、弾き飛ばされる。
 痛覚が邪魔だ。こうなったら――。
「ダメだよ」
 少女が前に出る。
「私がやるから」
「ダメだ!スイ!」
 止めようとするが、身体が動かない。
 どうしてこんなにも中途半端なのだろうか。
 大事な時に、役に立たない力。
 少女は恐れることなく妖魔に歩み寄る。
 妖魔の攻撃は、少女には通らない。どの攻撃も、少女にたどり着く前に消滅してしまう。妖魔が振り下ろした拳も。そして、妖魔自身さえも。
 全てが消え去った。
 少女が、倒れる。
 涙が零れ落ちる。
 何ひとつ守れなかった。
 その思いだけが、ただただ重く圧し掛かる。
 景色が歪む。
 砂嵐。
 そこで映像は終わった。







inserted by FC2 system