-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第一話:第一区域
「デーモンクォーターが運命のダイスを手に入れることについて語ろう」:其之十三


 

「なーに見てんのっ?」
 声をかけられたかと思うと、視界が顔ドアップで遮られる。
 チカだ。
 シキは無言でチカの顔を押しのける。
 押しのけると、再び青い空が映し出される。
「ねーねー」
 もう一度、チカのドアップ。しかも額の角で、シキの額をつついてくる。地味に痛い。
 いたずらっ子のような笑みを見せるチカ。何百年、何千年と生きているくせに、しぐさが妙に子供っぽい。けれども、時折見せる母のような顔が、間違いなくシキの心のよりどころでもあった。
 姿形は小さいけれども、その存在はシキにとっては非常に大きかった。いつも明るく前向きで、強くて。憧れだった。
「……空だよ」
 シキは答え、空を仰ぐのをやめた。
「おもしろい?」
「おもしろいよ」
「変なの」
 言いながら、チカはシキの隣に座る。
 確かに傍から見れば、変かもしれない。公園のベンチに一人腰掛け、何をするでもなくぼんやりと空を眺めているのだから。
「楽しい?」
「そこそこ。徐々に形が変わっていく雲がおもしろい」
「シキみたいだね」
「え?」
「ん?それってなんだかシキみたいだなって思っただけ」
「雲が?掴みどころがないってこと?」
「そこじゃないよ」
 ケラケラと笑う。
 首を傾げるシキ。時折、チカの言っていることがよくわからない。あまりにも抽象的な物言いは、何を言おうとしているのか意図を掴みかねる。
「今日はね、シキにプレゼントがあるんだ」
「あれ?今日誕生日だっけ?それともこどもの日?」
「違うよ。別に特別な日じゃなくてもいいじゃん」
「あ、うん。何かくれるなら嬉しいけど」
「でしょでしょ」
 チカはずっと背中に回していた手を、シキに向ける。
「じゃじゃーん!」
「うわぁっ!」
 悲鳴と共に、ベンチから転げ落ちるシキ。
 チカの手には小刀。しかも抜き身の。
 つまり、チカは勢いよく抜き身の小刀をシキの首元に突きつけたのだ。
 シキが驚いて転げ落ちるのも当然だろう。
「な、何?かつあげ?いくら払えばいいですか?」
「違うよ」
 刃を掴み、柄をシキに向ける。
「はい、プレゼント」
 きょとんとするシキ。三秒ほど経ってから、ようやく理解する。
 服についた土を払い、再びベンチに腰掛ける。
「これまたえらく物騒なプレゼントで」
 それでも、ありがとう、と礼を告げた。
 柄を握り、受け取る。
「私が作ったんだよ」
「チカが?」
「鬼の馬鹿力いっぱい込めて鉄を打ってみました」
「それはとてつもなく頑丈だね」
「うん。だから折れない。シキをイメージして作ったんだよ」
 意図がわからず、シキは首を傾げる。
「シキは、肝が据わってるのか据わってないのか、よくわからないね。負けん気は強いんだろうけど、恐がりでもあるよね」
「何?急に」
「君を長年見てきて思ったんだよ」
「だから、急に何?」
「急にってわけじゃないよ。はっきり言うとシキは嫌がるでしょ。だからそれとなーく言ってるの」
「わけがわからない」
「いいよ、別に。そのうち思い返してくれれば」
 わしゃわしゃと乱暴にシキの頭を撫でる。
 鬱陶しかったので、シキはその手を払いのけた。
「シキはしっかりしてる。うん。他の子達と比べても、すごくしっかりした考えを持ってる」
「え?あ、うん、ありがとう」
「一人でちゃんとできるってのはいいことだよ。でも、なんでもかんでも一人で背負い込まなくてもいいんだよ」
「そんなことはないと思うけど?」
「そんなことあるから言ってるの。スイを見てみなよ」
「いや、スイはなんていうか、甘えすぎ」
「あ、そうだね。あの子はもうちょっとしっかりした方がいいね。シキとスイを足して割れば、ちょうどいいんだけどなー」
 どうしたもんか、と腕を組むチカ。
 それを横目に、シキは小刀を光にかざす。歪みひとつない、すっとした光を映し出す。斬れ味は良さそうだ。おまけに頑丈。
「シキはさ、もっと周りに甘えてもいいんだよ。そういう繋がりが、きっとシキをここにとどめてくれるはずだから」
 チカが何を言おうとしているのか理解できないため、シキには返す言葉がない。
「シキは大丈夫だよ。私が保証する。もしその時が来ても、絶対踏ん張れる。シキは、ちゃんとここで生きていける。その刀と同じだよ」
 歪みなく光を反射する刀身。
 チカは、力強く言った。
「何があっても、決して折れない」







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