-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第弐話:第弐区域
「終の棲家に辿り着いた野良犬の昔話」:其之玖


 

 その夜、あたしは高熱を出した。
 雨に濡れたのと、気持ちが緩んだからだろう。
 今までまったく風邪なんてひかなかったのに。
 こんなにも身体がだるいことなんてなかった。頭がズキズキする。呼吸が苦しい。意識がはっきりしない。
 まるで、夢と現実の間にいるかのようだった。
「苦しそうだよ」
 声が聞こえる。
 誰だろう。
 そもそもあたし、何やってるんだろう。ここはどこだろう。
「イク様がわざわざ力を使うことはないですよ」
 ああ、そうだ。
 あたしは結局あの人達のところに帰ったんだった。
 レイ様に手を引かれて帰って、イク様があたしに抱きついてきて、チキはお風呂を用意してくれて、それから落ち込んでるカガにいっぱい謝って、イツカはうまい飯をいっぱい食べさせてくれた。
 すごく居心地がよくて、安心した。
 安心しちゃったからダメだったんだな。張っていた気が緩み、体調を崩した。
「でも、すごく苦しそうだよ。マヨ、すぐに治してあげるからね」
 イク様は本当に優しいな。
「よしよし」
 頭を撫でてくれるこの手は、きっとレイ様だろう。
 温かくて、優しい手。
 よく夢に見たあの手は、もしかしたらこの人だったのかもしれない。
 そうだったらいいな。
 もっと早くに出会いたかったけど。
 優しい感触が心地よい。
 今だけは甘えさせて欲しい。
 今だけは。







inserted by FC2 system