扉をノックする。
アジトとして使っている建物。ぼろいけど、結構大きい。
明け方。
普通の人間なら寝静まっている時間帯だが、あいつらは起きている。酒飲んだり、薬やったりして、この時間帯はまだ騒いでいる。
「あたしだ」
声をかけると、扉が開いた。
「なんだ、お前か。珍しいな、こんな時間に」
そいつは言いながら、あたしの持ってる抜き身の剣と拳銃に視線をやる。警戒している様子はない。裏切られるなんて思ってもないんだろう。
「ジェイはいるか?」
「ああ。中に居る。何か派手にやらかしてきたのか?」
「そうだな。これからやらかすつもりだ」
言い終わると同時に、斬りつける。
そいつは悲鳴もあげず、絶命した。
「おい、何だ。どうした?」
男が倒れた物音が、奥にも聞こえたようだ。
異変を感じ取り、中がざわつく。
透視能力で、確認する。だだっ広い部屋に集まっている。ざっと数えて20人近くはいるだろう。ちょっと辛いな。
まあいい。ジェイさえ殺せば、他は生かしておいても構わない。どうせ烏合の衆だ。
あたしは返り血を浴びたまま、奥へと進む。
独特の臭いが鼻を突く。葉っぱでもやってたんだろう。視線をやると、それらしきものがあちらこちらに散らばっている。
「おい」
ジェイが何か言おうとしている。
あたしは構わず銃口をジェイに向けた。
乾いた音が響く。全部で6発。
全て命中した。けれども、それはジェイには届かなかった。
あいつは両脇にいた連中を自分の下に引き寄せ、盾にしやがった。
死んだのはジェイではなく、ジェイの左右にいた2人。さっきまで談笑していた2人を、事も無げに身代わりにしやがった。
「何のまねだ?」
余裕の笑みで、ジェイが問う。
「鶴の恩返し」
「あん?」
「そういう物語があるんだよ。助けてもらった人に、恩返しするんだ」
「ずいぶんな恩返しだな」
「お前にじゃねぇよ。誰がお前なんかに恩返しするか」
「酷いこと言うじゃねぇか。仲間だろ?」
「ああ、抜けるわ。お前らの仲間なんて、恥ずかしくて表出歩けねーよ」
「まあいいさ。好きにしろ。俺も好きにさせてもらう。ちょうど退屈してきたところなんだ」
あたしは弾が空っぽの拳銃を投げ捨て、剣を構える。
「いいおもちゃが来てくれた。たっぷり楽しませてくれよ」
下卑た笑みを浮かべる。
こいつは本当にこういう表情がよく似合う。
こんな奴と一緒にいた自分が恥ずかしい。いや、たぶん以前あたしもこういう表情をしていたんだろう。
でも、今は違う。
約束を果たすんだ。
今までの自分とさよならだ。