-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第3話 第3区域
「オレンジを愛したリンゴとリンゴを愛したオレンジの平行線の日常」:#7


 

 時計を見る。
 時刻はちょうど午前2時。
 悪巧みを考えている者以外は寝ている時刻。
 ソフィアは起きている。悪巧みを実行するためだ。
 さて、そろそろ時間だ。
 時計の秒針と分針が重なった瞬間。
 耳をつんざく轟音。
 お手製の時限爆弾はしっかり発動。派手な音で闇を切り裂き、教会の門を吹き飛ばした。
 少しばかり火薬を奮発したせいか、想定よりも威力は大きかったが問題はない。小さいよりかは大きい方が良い。
 これで教会の連中は目を覚ましただろう。
 闇夜に紛れ、ひらりと塀を乗り越える。たとえ種族が人間とて、悪魔の従者ならばこれぐらい出来て当然。必須項目だ。
 外壁にも着地地点にも罠がないことは確認済み。気配を消して、建物内部へと侵入を試みる。
 と、ここでもう一発爆発音。
 時間差で仕掛けておいた爆弾が作動した。しかも電気をショートさせたようだ。点いていた灯りが一斉に消える。
 我ながらすばらしい。これは好都合だ。ソフィアは満足げに頷く。
 教会連中が動揺しているのが空気で伝わってくる。
 手早く窓の鍵を壊し、中へ侵入する。
 二階から降りてくる足音がいくつも響く。
 この教会の住人は、こういう奇襲に慣れていないのだろうか。楽な悪魔の館ばかり攻撃していて、こういったことに対処できなくなっているのだろうか。
 呆れながら、銃の引き金を引く。
 不用意に廊下に身を晒した者を、撃ち抜いた。
 暗闇には慣れている。さらにこの距離だ。外すはずもない。
 一発の銃声と、倒れる音。
 それを皮切りに、何発も乾いた音が重なった。
 これも好都合。銃声で足音を消すことが出来る。一人ひとり、確実に仕留める。
 銃声に隠れ、進んで行く。
「おい、みんな無事か!?」
 誰かが大声で呼びかけている。
 わざわざ自分の位置を知らせてくれるとは、親切な敵だ。
 声の方向を頼りに、廊下を進む。物にぶつかって音を立てるようなへまはしない。闇夜には慣れている。夜目が効くように、物心ついた頃から訓練された。その訓練の効果が、こういった形で発揮されているだけだ。
 男は仲間の名前を一人ひとり大声で呼んでいく。
 その中に、リリスという名前があった。
「大丈夫、無事よ」
 ソフィアは声の主に話しかける。
「ああ、リリス。無事だっ……」
 最後までしゃべらせなかった。
 引き金を引き、額を撃ち抜く。
 何の疑いも無く男は出てきた。リリスと声がよく似ていたのだろうか。長年話をしていないからソフィアにはわからない。しかし、似ているのならば、それはやはり嬉しい。
 さて、次は誰を狙おうか。
 振り返ったその時、目の前に影があった。
 気がつかなかった。浮かれていたからか、一瞬の気の緩みか。
 影が銃口を向ける。
 銃声。
 しまった。
 そう思った瞬間、光が目の前を通り過ぎた。
 コトン、と音を立てて、弾がソフィアの足元を転がる。
 以前にも見たことがある、優しい光。
 身体のどこにも傷は無い。撃たれていないので、当然血も出ていない。
 本人は気まぐれだと言うかもしれないが、命を救ったことには変わりない。紛れもなく、救われた命がここにあるのだ。
 光は弾丸を防ぐと、そのまますっと消えていった。
 状況を確認すると、ソフィアはすぐさま行動を開始する。呆けている場合ではない。床を蹴り、影に殴りかかる。
 撃ち殺す気はない。もっともっと苦しめる。さきほどの光で、この影の顔が確認できた。こいつが、この教会のトップだ。
 影、チアゴは明らかに動揺していた。確実に仕留められる距離からの発砲が防がれたのだ。人間ではできない業。だから、人間では敵わない。恐慌状態に陥っているだろう。
 神に祈ればいいだろ。救ってくれるのではないのか。
 心の中でそう問いかけ、ソフィアは思い切り腕を振り下ろした。
 醜い悲鳴をあげ、男は倒れる。さらに倒れたところを追い討ちで、蹴り上げる。とどめにもう一度、銃で殴りつけた。
 チアゴは頭を抱え、完全に動かなくなった。
 それを見届けると、すぐに近くの部屋に身を隠す。
 あの男は今は放置でいい。そうすぐには目を覚まさないだろう。あとで地獄に送り届けてやる。それよりも、今は他の者の始末を急がなくては。
 チアゴの悲鳴を聞きつけたのだろう。静まり返った暗闇の中、かすかに靴で床を擦る音が聞こえてくる。
 一人か、それとも二人か。息遣いがどんどん近付いてくる。
 どうやら相手は極度の緊張状態に陥っているようだ。これなら楽に勝てるだろう。
 そう判断したソフィアは、さっと部屋から出る。出た瞬間に相手を捉え、引き金を引く。そしてまた部屋の中に身を隠す。
 確実に撃ち抜いた。倒れる音もした。だが、即死させるほどではなかったようで、うめき声が暗闇に響く。いくら耳を澄ましてみても、それ以外に音は聞こえない。ならば自分の傍にいるのはこいつ一人だ。
 苦しませるのもかわいそうなので、ソフィアは再び部屋から出て、倒れる男を撃った。
 よし、静かになった。
 思い返し、殺した数を数えてみる。
 残りはあと3人。
 敵の人数ぐらいはちゃんと把握している。建物内部の様子も、事前にしっかり調べてある。
 残り3人は2階に潜んでいるのだろうか。
 足音を消し、気配も消して、階段を上がる。
 耳を澄ます。
 かすかに人の声が聞こえた。
 これだけ時間があったのだから、合流ぐらいはしているだろう。それは予測済みだ。
 焦らず、ひとりひとり確実に。
 ソフィアは、声がした方へ慎重に歩みを進める。
 こちらから仕掛ける方がいいだろう。奇襲をかけ、動揺している隙に仕留める。敵の方が数が多いのだ。こちらから動いて場をかき乱し、状況を作り出す。
 声や気配からして、あの部屋だろう。
 ゆっくりと近付いていく。近付くにつれ、話し声がはっきりと聞こえてくる。ただ声を落として話しているため、性別の区別まではつけることができない。
 あともう少し。もう少し近付いたら。
「俺が先に行く」
 はっきりと、そう聞こえた。
「お前は後からついて来てくれ」
 言葉が終わる前に、男が部屋から飛び出した。
 思っていたタイミングとずれた。それでも、きっちり照準を合わせる。
 男も慌てて銃を構える。
 これはどちらも怪我をするかもしれないな。
 ぼんやりとそんなことを考えた。
 が、銃声は響かなかった。
 光の矢が、男を貫き、吹き飛ばした。
 結局、優しすぎるのだあの悪魔は。
 人間に肩入れしすぎる。人を愛しすぎた。だから、神の怒りに触れ、堕とされたのだ。
 ソフィアは走り出す。
 部屋の中の影に、体当たりを喰らわせた。







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