-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第四話:第四区域
「臆病な彼女の方が大々的に困頓として混沌を受け入れている話」:第四節


 

 俺はお頭の古参の配下です。その中でも、一番古いと言ってもいい。あの当時、俺以外には誰もいませんでした。
 お頭と出会う前は、まあ、正直言えないようなことをいろいろしてました。気に入らないやつはぶっ殺して、欲しいものは奪って、やりたい放題でした。あ、今はもちろん違いますよ?そんな目をしないでください。ほんと、悪いことなんて何もしてませんから。外の世界の常識ってもんも、ちゃ~んと身につけてますんで。それはここの奴らも同じです。ぶっ飛ばしてでも身につけさせました。あ、いや、親切丁寧に教育しました。
 でも、あの当時は何もなかったんで、弱肉強食の世界でした。俺は、自分は力の強い部類の妖魔だと思ってます。だからそんなめちゃくちゃな世界でもやっていけました。
 他の奴らがやってるみたいに配下を引き連れて自分の領土を作ったりってのは、やりませんでした。自由気ままなのが自分の性に合ってるって思ってたんで。
 だから自由気ままに、強いって言われてる奴の噂を聞くと、ぶっ飛ばしに出かけたりしてました。
 え?ええ、そうっすよ。もちろん俺が勝ってました。負けは死ぬことですから。
 領土を持ってる奴をぶっ飛ばしたら、その配下の奴らは散り散りになって、そこを誰が支配するかでもめる。それでまた混乱が起きる。それがおもしろくって、わざとむちゃくちゃにかき回していたんです。
 あ、今では反省してます。本当ですよ?
 そういうことで、俺の名前はそこそこ知れ渡っていたんですね。一目置かれるのは、そう悪い気分でもない。だから調子に乗って派手に暴れてました。
 そんな時、ちょいと小耳に挟んだんです。
 あ、ちょっとお頭のことから話がずれますけど、でもお頭の出会いと重要なんです。
 それで、ある噂を小耳に挟んだんです。
 領土を持っていないが、とてつもなく強い妖魔がいるって。配下も引き連れず、ただただひっそりと気の合う仲間と暮らしてるらしい、と。
 俺は意気揚々と出かけました。
 だって変でしょう?ひっそり暮らしてるのに、なんでそんな噂が広がるんだって。どうせこっそり宣伝してたり、ひっそりしてるつもりになってるんだろうって思いました。なんかちょっと気に食わなかったんですね、俺は。
 普通に考えればわかることなんです。ひっそりなんて、こんなところでは暮らせない。どこにいようが襲われる。支配者争いに巻き込まれる。当の本人にその気がないのに噂になるってことは、そういうことを全て跳ね除けてしまえるほどの力を持ってるってことです。
 それが、俺はわかってなかったんです。あの時の俺はかなり調子に乗ってましたから。正直、俺より強いやつなんていないんじゃないかって思うぐらいに。だから自信満々にぶち殺しに行ったんです。
 場所はすぐにわかりました。かなり有名になってたみたいです。俺のほかにも噂を聞きつけて挑んだ奴がいっぱいいたらしいけど、どいつもこいつも返り討ちにあったそうです。
 俺がそこに到着した時、先客がいました。ラッキーだと思いました。敵の動きがわかれば、こっちに有利に傾く。こう見えても頭脳派なところもあるんですよ。
 で、俺は見物することにしました。
 先客は、それはもう大勢の配下を引き連れてましたね。俺はみっともないって思いましたが、まあ、弱くはないんでしょう。それだけ手下がいるってことは、そいつがそれだけの魅力や力があるってことです。
 対するのは、女でした。女がたった一人。
 その後ろには、そいつの棲家がありました。何の変哲もない、普通の家。
 噂に違わず、どうやら本当にひっそりと暮らしているみたいでした。
 家の中には同居人がいたんでしょうけど、心配そうに見守る様子もなく、ただ女が一人表に立っていました。
 馬鹿にされたと思ったんでしょう。同じ対応されたら、俺もそう思いますね。
 妖魔達が一斉に襲い掛かりました。
 女は、弱そうでした。普通の人間と変わりがないように見える。これがあの噂の妖魔なんだろうか。俺は疑ってました。
 いかつい、気持ち悪い妖魔共が女に襲い掛かります。けれども、女は顔色一つ変えず……歌いだしました。
 何の歌なのか、何て言ってるのか、俺にはさっぱりわかりません。歌って言っても、鼻歌みたいでした。それなのに、女の声はよく通り、耳にまとわり付くようでした。
 女に群がるのが妖魔じゃなくて花だったら様になったんでしょうけど、まあ、完全に場違いですね。
 だけど、女は微笑みながら、歌ってました。
 そして、目の当たりにしました。
 女に襲い掛かった妖魔共が、同士討ちを始めたんです。同士討ちを始め、死んでいるのにまた動き出し、今度は自分達のお頭に襲い掛かりました。
 その時、女が俺を見たんです。
 初めて恐怖ってものを味わいました。このままだと俺が殺される。そう確信しました。敵わないって思ったのは、初めてでした。
 あの女は、人や妖魔を思うままに操る能力を持っているんでしょう。でもそういうのって、自分と対等以上のものにはそう簡単には効かないんです。
 あの妖魔も、弱くはありませんでした。あれだけ配下を引き連れてたんだから、相応の実力はあります。それが、あの女は鼻歌で皆殺しにしたんです。
 俺なんかとは、格が違う。
 本当に先客がいてラッキーでした。俺は戦いもせず、尻尾を巻いて逃げ出しました。
 もう気づいてるかもしれないですけど、その女ってのはセリス様のことです。第五区域の領主様の。会ったことあります?うちのお頭もそうとうですけど、化けもんですよね、あの人も。
 打ちのめされましたよ。自分より遥かに強い奴がいるなんて、思ってもみなかったんです。
 それで、自棄になって暴れてたんです。その辺にいる奴をこっぴどくいじめてました。
 そしたらある日、いつもみたいにいじめをしてたら変な二人組みがやって来て、いきなり俺を殴り飛ばしたんです。他人様に迷惑かけちゃいけませんって言って。
 ええ、それがお頭と姉御なんですけどね。
 え?ああ、姉御ですか?姉御は姉御です。うーんと、それはお頭から聞いた方が良さそうですね。言えば会わせてくれますよ。俺がどうこう言うよりも、会ってみればわかります。
 それでですね、お頭はわけのわかんないこと言って、俺を殴り飛ばしたんです。そりゃ俺もやり返そうとしたんですけど、お頭ってめちゃくちゃ強いじゃないですか。こてんぱんにやられちゃいまして。あ、姉御は笑ってました。ぼこぼこにされる俺を見て、腹抱えて笑ってました。鬼ですよね。まあ、鬼なんですけど。
 でも、命までは取られなかったんです。それが不思議で不思議で仕方なくて。
 もやもやしたから、またその辺の奴いじめてたんです。懲りないですよ。そんなんで懲りてたら、俺は別の賢い妖魔になってたでしょう。懲りずに暴れてたら、またお頭がやって来てぶん殴るんです。めちゃくちゃやる俺を見つけては、何度も何度も叱りつけるんです。
 初めはなんだこいつって思ってたんですけど、いつの間にかちょっと楽しくなっちゃってて。
 お頭は他の奴らも叱り飛ばしてたから、自然と輪が出来てましたね。
 何でそんなことするんだって聞いたことがあるんですよ。そしたら、ここでぐらいは生きていけるようになってほしいって。
 ほら、俺たち妖魔って、外の世界で住めなくなったからここに流れ着いた奴らばかりじゃないですか。争ってばっかり、力を振るってばっかりじゃあ、いつ命を落としたっておかしくない。お頭はそれが悲しいって言ってました。
 俺はいつ死んでもおかしくない日々を生きてたんで、そんな風に言われたらちょっと照れちゃいましたよ。
 でも懲りずに相変わらず好き勝手やってたんですけど、ま、やりたい放題ってのは、できないもんですね。
 特に俺は徒党を組むことをしなかったんで、狙われやすかったんでしょう。
 ぶち殺した奴の仲間が、敵討ちだとか言って襲い掛かってきました。俺は覚えてなかったんですけど、向こうは覚えてたんで、たぶんそうなんでしょう。
 自分は強いと確信していたんですが、やっぱり数の暴力には勝てないもんですね。
 そりゃもうぼっこぼこにされましたよ。初めの方は良かったんです。こっちも体力はあったし。けど、何匹も相手をしていると疲れてくるし、傷も負う。ぼこぼこですよ。あ、死んだって思いました。
 別に後悔とかはなかったです。さっきも言いましたが、いつ死んでもおかしくない毎日を送ってたんですから、そういうもんだと思ってました。弱いから死ぬってだけです。そういう世界なんですから、仕方ありません。
 そう、それでお頭の登場ですよ。
 俺が殺されそうになった時です。いきなり目の前の奴が吹き飛んだんです。
 あ、たぶん想像してる吹き飛んだとはレベルが違うと思いますよ。吹き飛んだって言うよりも、木っ端微塵って言った方がいいですかね。
 そうです、跡形も無く粉々になりました。凄いことですよ。
 俺達妖魔の力って、言葉にすると妖力ってやつですかね。アビーさんで言うと、魔力って言うやつです。妖魔の強い弱いって、その妖力に依存するんです。たとえ見た目が貧相に見えても、妖力がでかければ強い。力比べにも負けないです。
 相手も結構強かったんですよ。それを粉砕したんですよ、粉砕。これってよっぽど強くないと、出来ないことなんです。めちゃくちゃ凄いことなんです。あ、お頭の凄さ、わかってくれました?
 いやぁ、あの時のお頭、凄かったです。惚れ惚れしちゃいました。
 実に楽しそうな笑みを浮かべて、敵をなぶり殺しにしていくんですよ。
 恐怖で動けない者をいたぶり、命乞いをする者を嘲り、次々と蹂躙していく。
 その時に俺、決めたんです。お頭に一生ついて行こうって。







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