-ダンプ-

「DUMP! -ダンプ-」は、創作小説サイト「萬花堂」の作品です。
since 2013/8/20

※この作品には流血をともなう暴力表現が含まれています。苦手な方は閲覧をお控えください。

第一話:第一区域
「デーモンクォーターが運命のダイスを手に入れることについて語ろう」:其之十一


 

 歩きながら、身体の調子を確かめる。
 間違いなく怪我をしていたはずなのだが、今はどこにもその痕はない。額から流れる血の感触、血に濡れる手の感触、背中の痛み、息が詰まる苦しさ、全て覚えているのだが、不思議と綺麗に治っている。
 心が落ちて妖魔の血に呑まれると、治癒能力が働くのだろうか。
 首を傾げるばかりだが、怪我が綺麗さっぱり治っているというのは喜ばしいことだ。あまり深く考えないことにする。
 靴音を響かせながら、歩いていく。
 清潔感の代名詞だと言わんばかりに白く光る廊下、白い壁、白い天井。どうして病院というのは、わざとらしいまでに清潔感を前面に出すのだろうか。
 上下左右、視界に入るもの全てを白で囲まれた細長い場所を、もう慣れてしまったこの道のりを、速い足取りで歩いていく。
 二年前と同じ、いつもの病室。しかし、今日はいつもと違っていた。
「よっ」
 マヨがシキの姿を認めると、軽く片手を上げる。
 彼女は病室の扉に背を預け、座り込んでいた。
「何してんの?」
 こんなところで座り込んで、怪しさしか漂わない。
 呆れ顔でシキは問う。別にわざわざ問わなくとも、返ってくる答えはだいたいわかっているのだが。
「何って、その、シキ大丈夫かなーって見舞いに……」
 決まり悪そうに、マヨはぽりぽりと頬をかく。
 ここで待ち構えていたくせに、言い訳のひとつも考えていなかったのには呆れるばかりだ。ここまで行動しておきながら、なぜもう一歩先を考えておかない。もうちょっとがんばれよ、と思ったが、口にするほどのことでもないし、態度に出すほどでもない。
 腹が立たないのだ。不思議と腹は立たない。眉を八の字にし、ばつが悪そうな顔を見たからだろうか。良くも悪くも、表情豊かな彼女はどこか憎めない。
「視たんだ?」
「……うん、視た。視えてしまった」
 未来が。
 マヨの目に、ここにシキが来るのが映ったのだ。
「さっきまでレイ様とイク様もいたんだよ」
「イク様も?」
「うん、心配になって来てくれたんだ」
 見舞いにだろうか。シキは首を傾げる。
「それで、今はレイ様とイク様は?」
 マヨには泊めてほしいと申し出たが、あの家の主はレイなのだ。レイの許可がなければ泊まることはできない。頭を下げて許可を貰おうと思ったのだが、マヨは両手を広げ、知らない、と答えた。
「中に入って花を飾って、どっか行っちゃった」
「従者だろ」
 どっか行っちゃったじゃねぇよ、と返す。
「だって、ここで大人しくシキを待ってなさいって言われたから」
 連れてくるように、ということなのだろうか。レイは言葉が少ないため何を考えているのかわからず、シキにはまだ距離感が掴めていない。
 しばらく厄介になるのだから、悪い印象を与えたくないと思ったが、今更であることに気づく。散々暴れた後だ。良い印象があるわけがない。あまり気にしない方向に決めた。
 シキは、邪魔、と座り込んでいるマヨを軽く蹴り飛ばし、扉を開ける。
 狭い狭い病室。個室で、ベッドはひとつしかない。テレビもなければ、暇つぶしを出来る雑誌なども置いていない。置く必要が無いからだ。彼女はもう二年も眠ったままなのだから。ただ、いつもと違って小さな机に花が飾られている。レイとイクが持ってきてくれたものだろう。
 シキが中に入ると、マヨもそのあとをついて来た。
「この子がスイ?」
 静かに眠る友の姿を見下ろす。
 眠っている彼女は静かに息をするだけで、それ以外の動きはない。
「一緒にここに来たんだ。チカに連れられて」
 詳しい説明は、面倒だったので省いた。
 どこまで何を視たのか知らないが、視えたのならばだいたいの想像はできるだろう。
「スイは、はじめはずっと泣いてて、何がそんなに悲しいのか私にはわからなかったけど、そのたびに慰めて、どうやったら泣き止むんだろうって考えて」
 だから、いつの間にか心というものがわかったのだろう。
「スイがいたからなんだ。私が人間らしくなれたのは。スイが、私の分まで笑ったり泣いたり怒ったりしてくれたから。いっぱい心をくれたから。それに……」
 溢れ出した思いは止まらない。一度堰を切った言葉は、次から次へと溢れていく。
「それに、シュガ様はずっと見守っていてくれたし、チカも傍にいて、力の使い方を教えてくれた。シュガ様もチカも、いっぱいいろんなことを教えてくれた。それなのに、私は何もできなかった。罪悪感みたいなのがずっとまとわりついてて……」
 シキは、マヨに向き直る。
「でも、もうやめる。これって、なんかすごい後ろ向きだなーって思ったから、やめるよ」
 その顔には、笑みがあった。
「だから、前向きに考えてみた。チカは、私は大丈夫だって言ってくれたんだ。踏ん張れるって」
 あの時はどういうことかわからなかったが、今ならわかる。あれは、成れの果てにはならないという意味なのだろう。
「それに、もし成れの果てになったとしても、シュガ様が殺してくれるって言ってくれた」
 シュガにそう言われたとき、不思議と気持ちが楽になった。
 たとえ成れの果てになったとしても、シュガの手で殺してくれるなら、悪くないと思えた。迷惑をかけることになるが、ほかの誰でもないシュガが殺してくれるのならば、恐くはない。
「でも、そうはなりたくない。スイを、残しては逝けない」
 シキは、スイが寝ているベッドに腰掛ける。
「思うんだ。いつも通り様子を見に来て、窓を開ける。新鮮な空気が入ってきて、それで、スイが目を覚ますんだ。でもこいつは人の気も知らないで、起きて第一声が『お腹が空いた』。それで私は呆れるんだ。やっぱりスイは変わらないなって」
 穏やかに笑う。
「これから何度目の桜の咲く季節になるかわからないけど、また昔みたいに花見をする。スイは写真が趣味だから、お気に入りのカメラを持って気合十分で、私に土を操って高台を作れって言ってくる。しょうがないから、私は桜の木を見下ろすぐらいの台を作ってやる。それがエルフに見つかって、怒られるんだ。でも説教が嫌で逃げる。全力で逃げて、逃げ切って、二人顔を見合わせて笑うんだ」
 それが以前の日常だった。取り戻したい日常。
「そうなればいいなって、思うんだ」
 穏やかな表情で、そう言った。
 マヨは頷く。
「うん、そうだな。そうなればいいな。いや、きっとそうなるさ」
 マヨの目にその未来は映されていないが、強く願えば実現するような気がした。
「でもその前に、私は私のできることをやっておかなきゃいけない」
 よっという掛け声と共に、シキは勢いよくベッドから立ち上がる。そして、マヨに向き直る。
「マヨに、お願いがあるんだ」
「何だ?あたしにできることならなんでもするよ」
「助かるよ」
 礼を告げ、それから言った。
「マヨは、その能力で視たものを、他の人にも視せることはできる?たとえば、マヨは私の過去をいくらか視たでしょ?その映像を、私にも視せることはできる?」
 マヨは目を閉じ、天井を仰ぐ。
 シキが何を言おうとしているのか、すでにわかったのだ。
 常日頃は馬鹿なことばかりしているが、その能力のせいだろうか、機微には鋭い。
 マヨは目を開け、銀と赤の瞳でシキを映す。
「できる。何が視たい?」
「私が祖父を殺すところ」
 お互い見つめあったまま、しばらく沈黙する。
 破ったのは、マヨのため息だ。
「酷いのは重々承知してるよ」
 シキが言った。
 育ててくれた肉親を、この手で殺したのだ。許されざることなのはわかっている。
「今の私という存在が始まるのは、祖父が死んでるところなんだ。祖父が死んでて、チカが現れて、私を抱きしめてくれる。そこから始まるんだ」
 マヨの表情が、どんどん困り顔に変わっていく。視せたくはないのだろう。
「自分が殺したのはわかってる。でも、何で殺したのか知りたい。今のままじゃ、すべてが曖昧で、記憶さえもはっきりしない。あの時、私は何を思って祖父を殺したのか。もしかしたら理由なんてないのかもしれない。でも、それと向き合わないことには前に進めない気がするんだ」
 困り顔のまま、マヨはじっとシキを見つめる。
 強い決意を持って、シキはマヨを見つめ返す。
 再び沈黙。
 どれぐらいそうしていたのか、やがて、マヨは頷いた。
「わかった。協力するよ」
「ありがとう。助かるよ」
 そう言って笑いかけるが、やはりマヨは複雑な表情のままだった。
「とりあえず場所を変えよう」
 部屋を去る。
 その際、一度だけ振り返り、スイを見る。
 スイは、もう二度と目覚めないことを覚悟して、力を使ったのかもしれない。自分の未来と引き換えに、他者の未来を守った。ならば、それに報いてこちらも立ち向かわなければならない。
 無言のまま、廊下を歩く。
 病院には大きな庭がある。庭というよりは、もうほとんど公園のようなものだ。病院に公園が隣接しているように見える。
 これもまたエルフ達が緑化計画と称して無秩序に植林していったのを、病院関係者がなんとか説得して緑豊かな憩いの場に押しとどめた結果だ。
 シキはその公園の、人気の少ない場所へと進む。
 ベンチに腰掛ける。マヨも隣に座った。
「ここなら誰も居ないし、大丈夫かな」
 近くに人が居なければ、万が一の時でも被害は最小限に抑えられるだろう。ただ、マヨにはとてつもなくがんばってもらうことにはなるが。
「結構応用が利くんだね、その能力。第三者にも視せられるなんて」
「いや、もともとはあたしの能力じゃないんだ。あたしがあまりにも説明がヘタクソで伝わらないから、チキが他の人にも視せられるように能力を授けてくれたんだ」
「なるほど」
 さすが神。変態だろうがどんな奇行に走ろうが、腐っても神だ。
「それで、どうすればいい?どうすれば視られる?」
「シキが何かする必要はないよ。そうだな、視やすいように、目を閉じて」
 言われたとおり、シキは目を閉じる。
 瞼に何かが触れた。
 マヨの手だ。温かい。
「本当にいいのか?」
「うん、いいよ」
「……視なきゃ良かったって思うかもしれない」
「これからは後悔しないために、今までのことを後悔する」
「……わかった」
 一切の光を通さない暗闇が、視覚を支配する。
 だがそれもわずかな間。すぐにぽつりぽつりと光が湧く。光の中から、映像が現れる。
 立ち並ぶ木々の間に、粗末な小屋。
 心が芽生える前の話。シキはどこか懐かしく感じた。
「どうした、シキ」
 男の声。
 もうほとんど覚えていないのに、これが祖父の声だとシキにはすぐにわかった。
 振り返ると、祖父がいた。
 シキが想像していたよりも、ずっと若い。40代ぐらいに見える。
 背は高く、体格が良い。鬼だから当然だろう。チカが異常なほど小柄なのだ。
 額には鬼の象徴である角。意外にも小さく、髪や帽子で隠れてしまうほどだ。
「シキ、土産だ」
 そう言って、差し出したのは犬だ。
「首輪がないから野犬だな。さて、どうする?」
 首根っこをつかまれた野犬は、非常に大人しい。いや、怯えて震えている。野性の本能でわかるのだろう。絶対に敵わない相手だと。
 シキは野犬に手をかざす。開いていた手を、握り締める。
 次の瞬間、土が犬を覆い、絞め殺した。
「やっぱりそうなるか」
 落胆と共に、彼は犬を投げ捨てる。
 シキは犬から彼に視線を移す。何の感情も表さない目で。
「そんな目で見るなよ。俺まで殺す気か?」
 シキはかくりと首を傾ける。
 彼は、大きな手でがしがしと乱暴にシキの頭を撫でた。
「なあ、お前はもうこれ以上は成長しないのか?」
 その問いかけに、シキは答えない。正確には、答えられない。ただ首を傾げるだけだ。
「あと、数日したらチカが来る。チカのことは覚えてるだろ?」
 シキはこくりと頷く。
 心はなくても、うまくしゃべることはできなくても、言っていることは理解ができる。知能に問題はないのだ。
「移住計画だそうだ。多種多様な種族が共存しているらしい。そこに移り住むらしい。無理やりにでも、お前を連れて」
「じいちゃんは?」
「俺は行かねぇ」
 シキは、首を横に振る。拒絶を示した。行かないということは、離れ離れになるということだ。それをちゃんと理解している。そして、離れたくないと思っている。
「お前も、行かせない」
 こくりと頷くシキ。
「ただ、お前の思っている意味ではない。俺は、お前が暮らしていけるとは思えない。お前が、暮らしていける場所があるとは思えない」
 彼はシキを抱きしめる。
「許せ。原因は俺にある。俺が、お前を作った。だから――」
 景色が歪む。
 砂嵐。
 暗闇に浮かぶ金の瞳。
 大きな手が、眠っているシキの首を捕らえた。明確な、殺意を持って。
「許せ。お前は俺の罪だ。俺は人と暮らすべきではなかった。触れ合うべきではなかった」
 鬼の力で、首を締めつける。
「チカの計画には乗れない。お前は、他者とは共存できない。心が抜け落ちた殺人鬼でしかない。これ以上殺す前に、俺がこの手で始末する」
 力では敵わない。その手を、振り払うことが出来ない。
 シキは、床を叩いた。
 能力が発動するまで二秒。その間、首をへし折られないように耐える。
 土が床を破る。男を襲った。
 男は飛びのき、それをかわす。
 シキは咳き込みながらも身を起こす。
 鬼が、向かって来る。鋭い爪を、振りかざす。
 咄嗟のことだった。
 誰にでもある防衛本能が働いただけだった。
 シキは、鬼を貫いた。
 咄嗟に土を操り槍へと変え、襲い掛かる鬼へと向けた。
 血が飛び散る。
 シキは、ゆっくりと彼に近づく。
「哀れだな……」
 それはシキに対して向けた言葉か、それとも自分に向けた言葉か。
 男は、口角を上げる。
 予想できた結果だ。しかし、避けることはできなかった。
 殺すか、殺されるか。
 結局彼は、後者を選んだ。
「殺せなかったか……」
 涙が零れ落ちる。
 それに、シキが触れる。
「涙」
 感情が高まると、零れ落ちるもの。
 シキの目から、雫が零れ落ちる。
 涙。
 己の起こした行動と、その結果を理解する。
 そして、彼も理解する。
 所詮彼は鬼でしかなかった。繊細な心の動きなど、理解できなかったのだ。
 シキを山奥に閉じ込めておくのではなく、もっと多くのものに触れさせ、もっと多くの感情に触れさせれば、もっと違った結果になっただろう。
 その兆候は確実にあった。好きなことには興味を露わにし、嫌なことには拒絶する。心が本当にないのであれば、その反応は示さない。
 彼は、所詮鬼だった。人の心が理解できない、ただの鬼でしかなかった。
「馬鹿野郎……!」
 動かなくなる彼を、シキは黙って見つめる。
 ただ見つめることしかできなかった。
 景色が歪む。
 砂嵐。
 そこで映像は終わった。
 マヨの手が、ゆっくりと落ちる。
 シキは目を開けた。
 赤と銀の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちている。
「何でマヨが泣くの?」
「シキが泣かないからだ」
 マヨは乱暴に涙を拭う。
「泣く資格なんてないよ」
 自嘲的な笑み。
「そんなことない!」
 マヨが声を荒げる。
「だって、仕方ないじゃないか!あんなの、どうしろっていうんだよ!」
 マヨは次から次へと涙を溢れ出させる。
 自分の代わりに、彼女が泣いてくれているのだろう。
 シキはそう感じた。
 優しくマヨの頭を撫でる。かつて祖父が、シュガが、チキが、そうしてくれたように。
「お前は馬鹿だ」
 声を詰まらせながらも、マヨは悪態をつく。
「マヨほどじゃないよ」
 シキは笑って返した。
「でも、よかった。知れてよかった。私は、おじいちゃんのことが憎くて殺したわけじゃなかったんだ」
 そう言った彼女の表情は、酷く穏やかだった。
「わかったよ。私は確かにおじいちゃんのことが好きだった。大切に思ってたんだ」
 残念なことに、良い未来にはならなかったが。
「それが知れただけでもよかった」
 ありがとう、と告げると、マヨは静かに首を横に振る。
 マヨのことだ。後ろめたさなり何なり感じているのだろう。
 気にするな、とシキはマヨの肩を叩く。
 それから、立ち上がる。
 まだまだやるべきことがある。むしろ、これからが本番だ。
「どこ行くんだよ」
「いろいろ。ちょっとやらなきゃいけないことがあるから」
 振り返らず、足も止めずに、答えた。
「あたしも行くよ」
 ベンチから立ち上がり、シキの後を追う。
「マヨは首突っ込みすぎだよ。ご主人様放っておいて、ふらふらしてていいの?」
「いいんだよ。好きにしろって言われたんだし」
「だからって、本当に好きにするなよ」
「いいんだよ。だって、シキはこれからあの成れの果てと戦うつもりなんだろ?」
 シキは立ち止まる。マヨを見上げる。
「それも視たの?」
「いや、勘だ。友達だからな。分かってて友達を危ない目に合わせるわけにはいかない」
「それはこっちの台詞なんだけどなぁ」
「それで、決戦の地はどこにする?」
「絶対ついて来るつもりなんだ?」
「当たり前よ。一人より二人の方が勝率アップするだろ。んで、どこに行く?」
「秘密」
「よし、あの河原か」
「何でわかったの!?」
「お前さん、わかりやすいな。かま掛けただけなのに」
 意外と悪知恵に長けている。
「……どうしてもマヨもやるの?」
「あったりまえだろ。あたしだってリベンジしたいんだから」
「ああ、それが本音ね」
 つまり、マヨもやられっぱなしは悔しいということだ。
 けれども、そんなくだらない意地で、友人を危ない目に合わせるわけにはいかない。
「ほんとに危ないんだよ」
「危ないのはシキの方だろ。あいつはシキを狙ってるんだ」
 マヨは自分の首に掛けてあるネックレスを外し、シキにかける。
「何?」
「神のご加護」
 マヨがつけてくれたネックレスに視線を移す。
 それぞれ形が違うトップが5つも付いている。トップにはめ込まれた宝石も全て異なっている。ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド、ブラックダイヤ。宝石自体はかなり小さいが、輝きからして本物だろう。
「八百万の神々のご加護だ。これにはそれぞれみんなの力が込められてる。お前さんの力になってくれるさ。勝率もぐーんとアップだ」
 シキは眉間に皺を寄せ、少し首を傾ける。
 マヨは説明を続けた。
「あんな感じでもみんな神様だ。カガは火の神。これに込められたカガの力で、炎を出すことができる。と言っても、本物にはずいぶん劣るけどな」
 チキは境界、イツカは鍛冶、そしてレイは死を、イクは生を。
 それぞれの力を引き出すことができる。
「ただし一回しか使えない。一回使ったら、また力を込めてもらわなきゃ使えない」
「どうやって使うの?発動条件は?」
「えい!って感じで」
「おい、こら」
「ほんとにそんな感じなんだって!空気読んで発動してくれるんだよ。うわっ危ないって思ったら、チキの力で結界ができて防いでくれる」
 ほんとなんだよ、と必死になるマヨを、白い目で見つめる。
 そんな高性能なものだとはとても信じられないが、あの神々なら不可能をあっさり可能に変えてしまう気がする。たとえ一回限りだとしても、あの力がサポートしてくれるとなると心強い。確かに勝率もアップするだろう。しかし。
「ちょっと待って。だとしたら、マヨは?」
「あたしにはこの目がある」
 自分の目を、親指で指す。
「未来は自分の意思では視られないって言ったけど、ちょっと違うんだ。ほんの数秒先なら視ることができる。だからあいつの攻撃は丸わかり。全部避けることができる」
「その代わり?」
 そういう高度な能力は、必ず反動がつきまとう。現に、マヨは自分の意思で視られる数秒先の未来を、自ら進んで視ようとはしない。それはつまり、使えば何か不具合が出るということだ。
「鋭いな。力を使った分だけ、しばらく目が見えなくなる」
 シキのマヨを見る目がきつくなる。
「大丈夫だよ。その後ちゃんと元に戻る。それに、あたしがぶっ倒れる前に、シキがあいつをぶっ殺してくれるだろ?」
 にかっと眩しいばかりの笑みをシキに向ける。
 まったく調子の良い。
 思わずため息が零れる。
「本当にどうなっても知らないから」
「大丈夫だって。大船に乗った気でいてくれ」
 ビッと親指を立てる。
 シキは困った顔で、しかし頷いた。
 信じることにした。この友人を。







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